ボアオ・アジアフォーラム2024年次総会参加報告

2024(令和6)年3月28日(木)・29日(金)、中国の海南省瓊海市博鰲鎮において開催された「ボアオ・アジアフォーラム2024年次総会」に参加した。

日本曹洞宗からは、大本山永平寺原田光則副監院老師、同小泉裕道参務老師、並びに総合研究センター小早川浩大常任研究員が派遣された。

〔1日目〕           

午前10時から11時30分まで国際会議センターにて開催された開幕大会に原田副監院老師が出席した。今年の年次総会のテーマは「アジアと世界の共通の課題、共同の責任」である。会場は各分野からの参加者2000名で埋められ、その様子はメディアセンターからリアルタイムに発信された。

その後、午後3時30分から5時まで、会場をメディアセンターに移して記者会見が行われた。記者会見の登壇者は以下のとおりである。    

                                            

印順法師(全国政協委員・中国仏教協会副会長・海南省仏教協会会長)

原田光則老師(日本、大本山永平寺副監院)

ブグリ師(カンボジア、寨法宗派僧王)

シッダッタ・ラカオ師(ネパール、ルンビニ開発委員長)

原田副監院老師に対して、チャイナデイリーの記者から以下の質問があった。

チャイナデイリー:中国の曹洞宗は南宋時代に日本に伝わり、日本曹洞宗を開創し、今では日本最大の仏教宗派に発展しました。日本ゲストにうかがいますが、仏教東流は日本の歴史文化にどのような影響を与えましたか。

原田副監院老師:まず質問にお答えする前に、この度のボアオ・アジアフォーラムにご招待を頂き、中国政府関係者並びに中国仏教協会演覚会長初め関係諸法師方、地元海南省仏教会の皆様、関係機関の皆様に心より感謝申し上げます。

日本曹洞宗にとっての仏教東流は、明日の基調講演の中でも触れていますが、仏教はインドから中国、朝鮮半島を経て日本に数多の祖師方によって受け継がれて来ました。特に達磨大師によって受け継がれた禅の教えは、臨済宗の栄西禅師と曹洞宗の道元禅師によって日本に伝えられ、日本の歴史文化に多大な影響を与えています。例えば茶道、華道、能などに禅の教えが取り入れられ、日本の芸術文化が完成されてきました。いま現在も心の修養としての禅文化が注目をあびています。

チャイナデイリー:今後、両国の仏教界はどのように手を携えて中日の民間文化交流をさらに促進していくのでしょうか。

原田副監院老師:1980年に寧波の天童寺において、当時の中国仏教会長である趙樸初先生を初め、中国仏教会の皆様のお力添えを賜り、道元禅師様の得法顕彰碑を建てさせて頂きました。以来43年、曹洞宗では中日仏教交流が盛んになりました。また、趙樸初先生が提唱された中韓日仏教交流会は「黄金の絆」として毎年各国持回りで開催されています。本年は日本で開催されます。

永平寺としては、天童寺様とコロナ禍前に交換留学僧の計画を模索していました。今後も更に踏み込んだ形で、改めてお互いの国の事情をふまえながら更に仏教を通して交流を深めて行くことが大切であると考えております。

チャイナデイリー:日本の曹洞宗は湖北の大洪山慈恩寺を祖庭と看做し、今年は、慈恩寺住職の印順法師とご一緒にボアオ・アジアフォーラムの宗教サブフォーラムに参加することができて、お気持ちはいかがでしょうか。

原田副監院老師:湖北大洪山慈恩寺は中国曹洞宗中興の祖と呼ばれる芙蓉道楷禅師の住職地でもあり、その法系に当然、我々は連なっており、毎朝のお勤めに諸仏祖に礼拝をしています。この度ご縁があってお会いする事ができ、大変光栄に思っております。

機会があれば、是非とも慈恩寺様にお参りをさせて頂きたいと思っております。また、日本にお越しの節は永平寺にもお寄り下さることを切望致します。そして、明日の基調講演が成功裡に終わることをご祈念申し上げます。

〔2日目〕

大会2日目は、「世界経済」「科学技術イノベーション」「社会発展」「国際協力」の4大分野に分かれ、会場の各所で約40のサブフォーラムが開催された。今回、「宗教の和合と文明の相互理解フォーラム」に総合研究センター小早川浩大常任研究員が参加し、講演を行った。

宗教サブフォーラムは過去8回開催されているが、いずれも宗教間対話として開催され、イスラムやキリスト教などの各宗教者が参集したものであった。今大会では初めて仏教者のみの開催となり、6ヶ国からの仏教者が集った。これに伴い、演覚法師が中国仏教協会会長として初めて参加したほか、宗教サブフォーラムの主催者として北京中央統戦部副部長・中華宗教文化交流協会会長である陳瑞峰氏が初めて出席した。

宗教サブフォーラムは午前9時30分から印順法師の司会によって進行され、アジア諸国仏教間の協力が議論の焦点となった。各師による講演の概要は以下の通りである。  

  演覚(中国仏教協会会長)

中国が仏教を世界に広める上で果たすハブ的な役割が重要であるとともに将来への期待について語った。

小早川浩大(曹洞宗総合研究センター常任研究員)

仏法が伝承された日本における曹洞宗の発展と変遷について、日本曹洞宗の伝承の脈絡について紹介するとともに、仏法は時間と空間を超越し、信心の礎であることについて取り上げた。                         ※資料①参照。

無碍(韓国、曹溪宗教育院阿闍梨審査委員長)

仏教の伝法・弘法は交流や文明の相互理解を促すものであり、それは中日韓の黄金の絆にとどまらず、より多くの国と民族を繋げるものであると語られた。

釈徳善(ベトナム、中央仏教教会執行委員会副主席兼秘書長)

ベトナムにおける中国禅の隆盛と発展について詳しく述べるとともに、伝播による互いの影響や社会発展と、両国人民の友好交流について語られた。

ブグリ(カンボジア、寨法宗派僧王)

カンボジア仏教と中国仏教の近年の交流の実り多い成果を紹介した。

アッサジ(スリランカ、ガンガラマヤ寺住持)

スリランカが東西文化の融和において果たした役割と、近年の中国とインドの仏教の海上シルクロードでの交流・相互理解について語られた。

シッダッタ・ラカオ(ネパール、ルンビニ開発委員長)

ブッダの誕生地で弘法するチベット仏教の高僧として、このような対話を通じて宗教和合と文明の相互理解を促進することについて語るとともに、ルンビニを各国仏教にとっての「我が家」とするために開発したことの意義と影響について語られた。

上記のように各師から発言があった後、交流によって互いを学び、仏教者として心を1つにして同行していくことが大切であると確認された。そして、陳瑞峰氏による閉会の辞により午前11時をもって会議は無事円成した。 

(文責:小早川浩大)

〔資料①〕

《基調講演》

尊敬する中国仏教界諸山の大徳及び政府代表の皆様そして仏教協会民衆代表の各位、カンボジア代表、大韓民国、ネパール、スリランカ、ベトナム等海外から参集しご臨席の皆様に謹んでご挨拶を申しあげます。今般、ボアオ・アジアフォーラムにおけるサブフォーラムが「仏法東漸、千里同風」をテーマに開催されますことを心よりお祝いいたします。

私は、このサブフォーラム開催にあたり日本曹洞宗よりの基調講演として申しのべさせていただく小早川浩大と申します。

さて、今から約2500年前に釈尊はインド・ガンジス河の中流域で活動されました。その布教活動によって説かれた数多くの教えは長い年月をかけて大地を歩み、海をわたり東アジアに広まりました。当地中国大陸への伝来は1世紀頃であると言われています.今から2000年ほど前のことです。伝記資料によれば、中国大陸への仏教伝来は後漢の第2代明帝、永平年間とされています。

その後、6世紀になると仏教は朝鮮半島を経て海を渡り、そして日本に伝わってきたのです。インドに始まった釈尊の教えは、約1000年の月日を経ながら徐々に東アジアに広まったのです。「仏法東漸」と言われる所以はここにあります。

私たち日本曹洞宗は、釈尊と2人の祖師、道元禅師(1200~1253)、瑩山禅師(1264~1325)を一仏両祖と仰ぐ宗派です。その始まりは今から800年ほど前に遡ります。1223年、道元禅師は24歳の時に現在の浙江省寧波の港から当地中国大陸に上陸し、禅林を中心に学ばれました。やがて、禅宗五山の一つである天童山景徳寺において生涯の師と仰ぐ如浄禅師に出会い、その教えを継承されました。日本曹洞宗において天童山景徳寺が「祖庭」と尊崇される所以です。

本日、司会進行を務めていただいている印順法師は、湖北省大洪山慈恩寺の住職であるとお聞きしております。湖北省大洪山は中国曹洞宗中興の祖と呼ばれる芙蓉道楷禅師の住職地でもあり、如浄禅師もその法系に連なるお弟子となります。如浄禅師から道元禅師へ、日本曹洞宗は連綿と続くその法系を仰ぎ、慈恩寺へも日本より幾度か参拝団が訪れております。道元禅師は、如浄禅師の教えを胸に、弘法救生の誓願をもって日本に帰国し布教活動を展開し、永平寺を開創されました。その教えを受け嗣ぎ、日本国内全域に展開されたのが総持寺開山瑩山禅師であり、道元禅師から数えて4代目の祖師となります。日本曹洞宗において道元禅師を「高祖」、瑩山禅師を「太祖」と尊称する所以であります。

800年後の現在、日本曹洞宗として展開した釈尊の系譜は、日本はもとより、八ワイ、北アメリ力大陸、南アメリ力大陸、ヨーロッパ等々世界に広まり、各地において曹洞宗の僧侶が活躍するようになりました。活動する僧侶の根底には東漸した仏法の教えが根本にあることは言うまでもない事実であります。

系譜とは、釈尊から代々受け嗣がれてきた仏法伝持の流れのことを言います。その流れを汲む者は、自らが瑩山禅師から道元禅師、如浄禅師から菩提達磨大和尚、そして釈尊へと遡り、釈尊に連なる存在であることを自覚することができます。時間、空間を超えて繋がることができるのです。そして、そのことが信心の礎となっているのです。

如浄禅師は、道元禅師に曹洞宗に連なる系譜「嗣書」を示し、教えを受け嗣いだ証として授与されました。日本曹洞宗では過去七仏から如浄禅師までの五十七人の祖師を「五十七仏」と称してお唱えして礼拝します。お唱えすることにより、東漸した仏法の継承者であることの自覚を促すとともに、仏祖に対する報恩感謝の念を抱くことができるのです。そして、ここで忘れてならないのが、それぞれの時代において、それぞれの場所で精進されてきた僧侶たちや、ともに仏法の教えに触れてその教えに生き、平和を希求して励んできた多数の人々の存在であります。これこそが、今回のテーマである「千里同風」と意を同じくするものといえましょう。

いま取り上げた系譜は日本曹洞宗の例となりますが、伝えている深意は決して一教団にとどまるものではありません。仏法によって、時間や空間を越えて釈尊の教えに繋がることができるのです。

それぞれの時代、それぞれの場所において多くの人々が受け嗣いできたからこそ現在の仏法があります。このことを踏まえれば、それぞれの歴史や伝統をお互いに尊重して仏法に生きていくことが肝要になります。「千里同風」のあり方とは、まさにこのことを言うのではないでしょうか。

長い年月をかけて、世界の各地において先人たちが我々に繋いできてくれた尊い教えを真摯に受けとめ、その教えに基づき、現代的な問題に対処しながら日々実践していくことにより、次世代、さらにその先へと繋げていく。このことこそが今を生きる仏教者としての責務であると考えます。

一例として挙げるならば、19世紀において困難な一時期にあった中で、中国仏教界を先導された趙樸初先生は、中・韓・日の仏教交流を「黄金の絆」として提唱され、活発な交流を進めて平和に大きく貢献され、それは今に至って受け継がれています。時代を生きる仏教者の一つのあり方といえましょう。

本日は、ともに世界仏教友好交流の歴史を振り返り、友情を語り合い、力を凝縮して智慧を出し合い、お互いに高めあうことを目的としています。皆がそれぞれの場所で、それぞれの伝統の中で実践していますが、お互いに釈尊、仏さまの教えを大切にする友人であることを改めて確認することができるのは誠に喜ばしいことであります。そして、これからも釈尊、仏さまの教えとともに歩むという思いを新たに抱く場となるように祈念いたし基調講演とさせていただきます。

以上